June 03, 2005

その素晴らしい批評ってやつを知らないのだ

 結論は俺の勉強不足、無知を確認しましたよ、ってことなんだけどさ。

 批評を、場合によっては酷評をとても大事だっていう人が多くてさ、驚いたわけ。誰もが皆、自由に批評の文章を世にさらしていって、それをクリエイターが読んだほうが結果的に文化は成熟するし、受け手側も育つって信じてるんだよね。そこが俺の考えてたのと違うなぁってのは素直な感想。

 結局は俺の勉強不足でさ、俺自身が知らないのよ。クリエイターを育てた実績のある「素晴らしい批評」ってやつを。物知りの人が書いた「素晴らしい分析」ってのは何度も体験したことがあるんだけどさ。批評の文章を読んで「これ読んだらクリエイターの人は目が覚めて、素晴らしい創作をしてくれるだろう!」って思った経験がないの。

 素晴らしい批評は素晴らしい批評家を育てそう、ってのはわかるんだけどさ。本当に素晴らしい批評のおかげで素晴らしい創作をしたクリエイターってのはいるのかね?
 クリエイターの中に客観視のできる冷静な目ってのは必要ですよ。良い分析や批評をたくさん吸収したおかげで、音楽の手法の選択肢が広がったクリエイターもたくさんいるだろうね。引き出しが増えるってことはいいことだもの。同一のクリエイターの作品のうち、初期の作品が最も素晴らしい、って人だけじゃないもんね。初期衝動による作品にキラリと光る素晴らしい作品は多いけど、そればっかりじゃない。成熟・円熟したおかげでできた素晴らしい作品だってたくさんある。その成熟のうち何割かは受けた批評によるものかもしれない。

 そういう事実や実績が……「良くなかった作品は評価は、話題にしないこと」よりも、「そのおかげでクリエイターがモチベーションを下げて作品づくりを断念してしまう可能性」よりも、世の中のためになってる、って思っているってことなんだよねぇ。そのへんが俺の考えとの違いなんだなぁ。俺は「良くない作品は話題にならない世界」の方が、ずっと良い作品が生まれる土壌になると思うんだよなぁ。

 みんな、読んだことあるんだよね? 体験してるんだよね? 本当にクリエイターのためになった批評ってやつを。あるいは酷評ってやつを。俺わかんないんだよ。俺がモノを知らないのだ。少なくとも、俺が書いた批評チックなものは何も生まないって断言できる。そういう意見もあるっていう「勢力分布図の点ひとつ」にはなるかもしれないけど、それ以上の何者でもないっていう自信があるのね。皆さんはどう? クリエイターの人たちの次の作品にとって価値ある批評、書いてますか?

 「だからって自由に批評もできない世の中イヤだもん。言いたいこと言えない世の中は気分悪い。書かせろ! クリエイターがどう思うかとか、そんなのいちいち考えてねーや」って意見だったらよっぽど頷けますよ。そう言ってくれるなら俺も納得する。俺も批評もできない世の中はイヤだし。でも、俺が読んだ範囲では批評自体の価値を軽視するな、みたいな文章がめちゃめちゃ多かった気がするんだよね。酷評のおかげでクリエイターがつぶれた方が世の為だ、みたいなさ(俺が当時言ってたのって、批評と文化の関係じゃなかったよね? 「それで勿体無い結果になるの避けようぜ」だったよね?)。

 インターネットのおかげで誰もが自分の意見を手軽に世界に発信できるようになって、自分の考えを文章にまとめるなんていう二十年前だったら学校や職場でしかやらなかったことを多くの人がするようになって、一億総批評家時代になってその結果、文化的に豊かになったわけだ。

 難しいもんだねぇ。俺も素晴らしい批評に出会って読んで目が覚めれば、あるいはクリエイターになって素晴らしい批評を受けてそのおかげでもっと素晴らしい作品が作られれば、みなさんの言ってたことがわかるのかもしれない。結局は俺の勉強不足ってことさ。

 俺も批評、するけどね。昨日も書いたけど。そのへんちゃんと自分の中で線引きしてやってます。そして俺の批評は何にも価値がないとも思ってますよ。

 蛇足だけど、「酷評と盲目なベタ誉めは責任を取れないという面で同じだ」という意見をいただいたのでそこにもコメント。それはたしかにそう思うけど、俺が責任取れないって言ったのは特に「機会損失」についてだったと思うんだけどな。

 盲目なベタ誉め評を読んで、だまされてその作品を買っちゃった人が居たとしましょう。鵜呑みにして楽しんでその人が幸せになったなら大成功ですよね。作品の真価に関係なく。全然楽しめなくて鵜呑みにして損したって激怒したら、彼は何かひとつ学ぶわけですよね。何がしかのお金と時間を失う代わりに。そのどちらの結果も「誰かの酷評が、誰かがその作品との出会いを失わせてしまったり、そのクリエイターの次の作品が永遠に失わせてしまったりすること」よりも大きな問題だと、俺には思えないんだよね。

[追記]
・「俺の批評でクリエイターの人は目を覚ませ!」と思ったことはないですが、「新作が出るたびに最高傑作だって褒めちぎるバカファンどもは、俺の批評で目を覚ませ!」って思って書いたことはありますね。いずれにせよ今となっては恥ずかしい過去です。

・ちなみに上記の文章は、自分の書いた「その冒涜がいったいナンボのものなのか」というエントリと、津田さんの書いた「酷評するヤツに守ってもらいたいルール」というエントリを読んだ人たちの意見を読んで書いたものです。

・カテゴリから違うんだから全然関係ないんだろうけど、この「30日間カップ麺生活」ってブログは連載当時かなり面白がって読んでたんですが、「うまい」と表現されるたびに何度も何度もカップ麺食べたくなったんですね。もちろん全てのカップ麺を誉めてるわけじゃないのに、結構批評的なこともおっしゃってるのに、読んでてまったくいやな気分にならなかったんです。それは著者さんの人となりによるものなのか、文章の力によるものなのか、はたまた俺がカップ麺の好き嫌いに感情的になれるほど思い入れがないからなのか、理由はよくわからないんですけどね。(05/06/04 13:15)

Posted by dk at June 3, 2005 09:21 AM | TrackBack
Comments

クリエイター側の人とやり取りすると、「クリエイターのためになった批評」とは「素晴らしい批評」ではなく「生の率直な意見」という話を聞きます。あと、「叩かれるより話題にされないことの方がツライ」という意見も良く聞くので、モチベーションという観点では、「良くなかった作品は評価は、話題にしないこと」は、酷評よりも酷いこともあると思うのですが。

Posted by: いちせ at June 4, 2005 05:26 PM

実験さんの言われることはよく分かるつもりなのですが、やっぱり有限な金と時間を消費する側から言えば「分かりきった地雷は事前に回避したい」というのが正直な気持ちです。
世の中の95%が不支持な作品があるとして、その95%が沈黙して5%の支持票だけが表に出てくるという事態を考えると、何らかの形で「世間の95%は不支持である」ということを知るための代替手段は必須でしょう。

Posted by: KK at June 5, 2005 11:27 AM

私はこう思いました。

自分の信念に基づいてすばらしい創造をするクリエイターは、仮に一般人が的外れな批評をしても「ポリシーの違いでの批評か」と難なく受け取れると思います。
批評というのは、そういうすばらしいクリエイターが築き上げたブランドや信頼にただ乗りして上っ面だけを掠め取る焼畑式商売をしている人に向けられた抗議活動的なものが多いと思います。
また、信念の違いによって「客である自分の趣味とは違う」というクリエイターにとって害にならない批評というのも多いと思います。

信念のあるクリエイターにむしろ向きな批評を浴びせることで、全員が不幸になる事例も存在すると思います。
しかし「焼畑商法のハッタリ系似非クリエイター」への抗議を封じるような論理展開(に私は見える)は、話が大雑把過ぎると思います。

Posted by: otsune at June 6, 2005 04:12 AM

> 自分の信念に基づいてすばらしい創造をするクリエイターは、仮に一般人が的外れな
> 批評をしても「ポリシーの違いでの批評か」と難なく受け取れると思います。

すべてのクリエイターがそうだとは僕は思いませんね。otsuneさんは批評そのものに
対するリテラシーの話をされているのだと思いますが、クリエイターのものを作る
能力と、そうしたものに対するリテラシーは必ずしもイコールではないと僕は
思います。もちろん、的はずれな批評に対してそれをスルーできる能力の高い
クリエイターの人もたくさんいるでしょうが。すべての信念があって能力の高い
クリエイターが、批評に対して「難なく受け取れる」というのは、別の話になって
くるのでは。「難なく受け取れない人は信念がない」という話になるのかも
しれませんが、すばらしい創造をすべてが信念に基づいた結果というわけでも
ないでしょうし、創造と批評に対するリテラシーは分けられて考えるべきだと
僕は思います。

が、もちろん「ブランドや信頼にただ乗りして上っ面だけを掠め取る焼畑式商売」
に対する消費者からの批判というのはあってしかるべきだとも思います。

ただ、現状ブログやAmazonのレビューの中にはあまりにも言葉足らずで、
クリエイターへの批判なのか、それとも焼畑式商売への批判なのか判別できない
ものも多く(そのように判別できないものは、そもそも読むに値しないという
話にもなるかもしれませんが、それをどう捉えるかは前段のリテラシーの話に
戻ってしまうのでこの際置いておきます)、そこらへんを物理的なシステムなり、
マナーなりである程度フィルタリングしてやる必要はあるんじゃないでしょうかね。

Posted by: 津田 at June 6, 2005 04:32 AM

http://d.hatena.ne.jp/kisshee/
ブログで、dkさんの記事を取り上げさせていただきました。
拙い文章ですが、ご覧いただければ幸いです。

Posted by: kisshee at June 7, 2005 11:58 AM

率直に言って申し訳ないがクリエイター側の甘えにしか聞こえない。
ビジネスである以上、作品の価値はクリエイターが決めるのではなく、客の評価によって決まるものだ。
たとえ酷評であろうとも客の反応の一つとして直視すべきである。
市場の空気を読む能力が無いのであれば、市場から降りてもらっても客は全然困らない。
客はクリエイターや業界の為にいるのではない。
当然クリエイターを育てようと思って批評しているわけでもない。
クリエイターは客の批評によって反省点のヒントを得ることが出来るだけだ。
だがそれも見ないクリエイターが、本当にあなたの言うように将来挽回する時が来るだろうか?
モチベーションを下げて作品づくりを断念してしまうのならそれで結構。
そのポストを別の人間に与えることが出来るわけだから。
もし万一誰も後に続かない時が来れば、その娯楽は消滅するべきだろう。
面白くない映画、小説、ゲーム…etcになんの存在価値があるのか。
「面白くない」という言葉が適当でなければ「市場価値の無い」と言い換えても良い。
消費者にとって娯楽はいくらでも替わりきくものだ。
クリエイターは誰に向けて作っているのかを自覚すべきだろう。

なお、5/14分に関連して言えば「駄作。聞く価値なし。…」というレビューは、
どう駄作だと思ったのか、どうして聞く価値が無いのか、が語られていないという点で
他の客、クリエイターともあまり参考になるものではない。
しかしクリエイターなら誰でも投げかけられる可能性のある言葉であるということは理解すべきだろう。
つまり彼にだけそういうレビューが多数ついたのなら、それは市場的には相当不評だったと見ることが出来る。
消費者がそういう情報を得るチャンスを奪う権利は少なくともクリエイターにはない。

Posted by: 通りすがり at June 16, 2005 11:38 PM


「表現者のモチベーションを下げる批評」の典型例ですな。なるほど。

Posted by: モーリ at June 18, 2005 05:49 AM

>通りすがりさん

「市場価値の無い」=必要無い

じゃ、趣味・娯楽産業は全滅するでしょうね

そんな世界には住みたくない

Posted by: tag at June 18, 2005 01:40 PM

>クリエイターは誰に向けて作っているのかを自覚すべきだろう

これも気になるなあ
すべてのクリエイターがサービス産業従事者じゃないんだけどなあ・・

Posted by: tag at June 18, 2005 01:41 PM

>モーリ氏

>「表現者のモチベーションを下げる批評」の典型例ですな。なるほど。
それで結構ですが、そう言うあなたは?
あなたのその言葉に何かヒントはあるんですか?
内容に同意して頂けるかはともかく、私は言葉を尽くしたつもりですよ。

>tag氏

>じゃ、趣味・娯楽産業は全滅するでしょうね
それは無いと思いますが、それならそれで良いのでは?
趣味や娯楽が産業と結びついていなければならない理由はないでしょう。
しかし…そもそもあなたの前提とされる世界がどれほど酷い状態か理解されてますか?
市場的に価値が無いということは、大多数の客にとって面白くないと判断されたということです。
しかも死滅するほど何度もそんな状態が続いたと…。
(前回の私の文章を踏まえて書いていることに注意してくださいね。)
もしそれでもあなたがその業界の消滅が許せないとお考えであれば、
あなたが買い支えれば済む話です。
別に私はそれに反対しているつもりはありませんよ。

>すべてのクリエイターがサービス産業従事者じゃないんだけどなあ・・
それは詭弁ではありませんか?
このエントリで筆者が対象にしているのは、あくまでもサービス産業従事者としてのクリエイターでしょう。
私はその内容に沿ったものを書いただけですが?

Posted by: 通りすがり at June 18, 2005 08:46 PM

>通りすがりさん
実験さんはそもそも、正しいとか正しくないとか権利とか義務とか、そういう話をしているわけではないと思いますよ。
それにクリエイター側の立場でものを言っているわけでもないはずです。

「受け手は作り手を思った通りに批評する権利がある」それは当たり前の前提です。
ただその批評で次の作品が作れなくなって、そのせいで我々が将来得られるかも知れなかった傑作を失うことになったら勿体無いよね、という思いがまずあって、そういう思いを共有している人の間で「じゃあどう行動するのが受け手にとって一番幸せになれる道なのか」というのを考えるのが前回および今回の趣旨でしょう。
(って分かったようなことを書きましたけど外してたらごめんなさい)

だから、最初の時点で「勿体無い」と思わない人はこの議論に参加する意味がないですよ。
僕自身は前に書いたように、趣旨には賛成するけれども、手段には手放しでは賛成できないかなあ、という感じです。

Posted by: KK at June 18, 2005 10:26 PM

>KK氏
あなたが「当たり前の前提です」と仰るように私の書いた事は一般論として転がっている話です。
なぜそういう事を書いたかというと、そういうポジションの人間にはどう説得するのかということが聞きたかったからです。
実験氏は自説に関しては詳しく説明されていますが、我々の立場からすればそういう話をいくらされてもしょうがないんです。
我々が聞きたいのは「今のポジションからそっちへ移動するに足る理由があるのか?」ということです。
私はこのエントリの対象が、あなたの言う「思いを共有している人の間」に限られるということに気付きませんでした…というか今も分かりません。
実験氏の主張通りの世界、即ち酷評によって殺されるクリエイターが出ない世の中にする為には、酷評を是とする私のような人間を積極的に巻き込んで説得していくことこそが重要なのではないですか?

Posted by: 通りすがり at June 19, 2005 07:23 PM

>通りすがり
そんなに頭のいいアンタでも、
「通りすがり」なんてお寒い名前で
その正しさ満点の持論を
書き捨てていくって行動が
恥ずかしいとは思わないんだねー

反論されたら
通りすがりのはずなのに
書き捨てだったはずなのに、
何度も何度も反論の
コメント書いちゃったりするんだねー

友達に相談してみなよ?
「先日、ふと立ち寄ったページに
持論を書き込んだらこう言われた」って
いろいろ気づくと思うよ

Posted by: 常連 at June 20, 2005 09:05 PM

実験氏は現れてくれないようなので、これで最後にしたいと思います。

>常連氏

「通りすがり」という名が寒いって意見は初めて聞きました。
通りすがりだからそう書いたまでです。精々「非常連」という意味ですよ。

>書き捨てていくって行動が
>恥ずかしいとは思わないんだねー
〜中略〜
>書き捨てだったはずなのに、
>何度も何度も反論の
>コメント書いちゃったりするんだねー

あなたの感覚では書き捨てた方が恥ずかしいんですか?
それとも議論を継続する方が恥ずかしいんですか?
いったいどっちなんですか。(笑)

私の感覚では書き捨てる方がみっともないと思いますね。
さらに言えば、あなたのようにただの感情論を書き殴るのもね。
それらに何の意味があるっていうんですか?
どちらも相互理解を放棄した不毛な行動に過ぎないじゃないですか。

あなたは実験氏の味方のつもりかも知れませんが、そんな盲目的信者みたいな態度は迷惑でしかないと思いますよ。
あなたには敵か味方か、好きか嫌いかという価値観しかないのでしょうね。
でもそれは狭いものの見方ですよ。
私だって自分の考えが永久に変わらないと信じているわけではない。
あなたの説得でそっちの説に移動する可能性は大いにあるんです。
あなたが本当にすべき事は、私を論理的に彼の説に誘導することだったんですよ。
tag氏やKK氏にはそういう態度を感じましたし、今更言うのも何ですが正直なところ感謝しております。

実験氏ともそういう話をしたかったんですが…まぁいいでしょう。
(トップページで最近コメントされたエントリが分かるんですよね?)
KK氏の指摘のように言わば「思う思わない」論ですので、「実験氏はそう思う。私はそうは思わない。」でこれまで通り行けばよい。
彼に説明する気が無いのであれば、無理に聞く話でもないですしね。
「議論を拒否する」ということが実験氏の回答だとして受け止めます。
ご覧の皆さんには不快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでしたが、
この回答を得る為のプロセスとして必要だったこともどうかご理解下さい。

以上です。
もう来ませんのでご安心下さい。

Posted by: 通りすがり at June 21, 2005 08:02 PM

>実験氏ともそういう話をしたかったんですが…まぁいいでしょう。
>この回答を得る為のプロセスとして必要だったこともどうかご理解下さい。
だからアンタは何様なんだよ
回答お得るためのプロセスって、アンタの?

>もう来ませんのでご安心下さい。
書き捨てじゃないか結局
みっともないって認めろよ

ほら アンタの最後の書き込みまで含めて
友達に説明してみなって
自分のホームページから
ここをリンクするのもいい
この通りすがりって俺なんだけどってさ

いろいろ気づかせてくれると思うよ
見るのがアンタの友達ならね
説明できる?
胸張って説明できるかい?
アンタの友達に
アンタのやってることを

Posted by: 常連 at June 21, 2005 09:07 PM
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